秋の気配
日射しはまだ強いけれど、風が秋を運んできた。
顔に当たる風が、とても涼しい。
空気も少しずつ澄んできた。
こんな気候の、夕方はとても切ない。
ただでさえ季節の移り変わりは切ないのに。
夏から秋に移ってゆく季節は、いつも涙が溢れそうなくらい切ない。
肌に感じる温度で、心が変化したりもする。
生温かい、まるで人肌に包まれているような空気に、とても安心する人もいるだろう。
冷え切った空気に触れると、突然目が覚めて気合が入る人もいるだろう。
どこへ行ってもうだるような暑さの中、山へ入り涼を求めることが好きな人もいるだろう。
わたしは、この秋の空気がとても好きだ。
切なさがどこからともなく運ばれてくる、この季節が一番好きだ。
そして本格的な冬に突入すると、もっともっと寒さが好きになる。
そんな切ない季節、感受性が敏感になっている実感がとてもある。
読書の秋とはよく言ったものだ。
また読書欲が湧いてきた。寝る間を惜しんで、物語の世界へ入り込んでしまう。
最近のお気に入りは、ホラーやサスペンスというジャンルに分類されるようなもの。
背筋が凍るような物語の中に、人間の浅はかさや切なさ、愚かさや温もり、激情や虚脱・・・
そんなものを垣間見る瞬間。とてもやめられたものではない。
秋の気配とともに、部屋の中の温度も過ごしやすくなってきた。
タバコを燻らせながら、物語の中へ入り込んでゆく。
ずっとずっと秋ならいいのに、そんなことを考えながら。
自分のコンプレックスを忘れるための逃避、という本音を隠しつつ
今日も物語への旅をする。
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